石渡圭子先生(横浜国立大学経済学部専任講師)が、MIの発表会をご見学

横浜国立大学経済学部講師 石渡圭子

2009年12月13日(日曜日)Tomoe MI Academyで行われた第6回英語そろばんの発表会を見学しました。ここではMI theoryに基づき英語を媒体言語として日本伝統のそろばんを小学生中心に教えています。英語でそろばんを教えるというユニークな発想のため、NHKの「英語でしゃべらないと」や朝日新聞等でも紹介されていますが、MI Theoryの見地からこの発表会でのMI Theory実践をプログラムに沿って検証したいと思います。


MI Theory 実践の検証

(1)個人発表の部

内容:個人のそろばんのレベルに合わせての計算。ゲストのNative Speakerの先生が問題を読み、生徒はそろばんで計算し、もしくは暗算によって、英語で解答する。
方法:
1.司会者から名前を呼ばれた生徒はステージに立つ。
2.先生からの生徒の氏名とIntelligenceの紹介。生徒の持つ強いIntelligenceは先生の日頃の観察から把握されている。そのintelligenceを具体的に紹介する。「Logical-Mathematical Intelligenceがあります。」と紹介するのではなく、「毎日興味を持ってそろばんに家庭でも取り組んでいます。短期間に計算力の伸長が著しく、このような計算までできるようになりました。」
3.生徒が自己紹介を英語もしくは日本語で行う。
4.生徒所定位置に着席。
5.準備ができているかを確認後、アメリカ人の先生が問題を読み上げる。問題は個々のレベルに応じたもの。間違えた場合は同じ問題が繰り返される。
6.ステージのスクリーンには生徒のそろばんを使っての計算過程が映し出される。間違った場合は繰り返される。
7.生徒が英語で解答する寸前にスクリーン横、生徒の後方のホワイトボードに答が表示される。

観察結果
・個のレベルに合わせて教えることはMI Theoryの本質である。一人一人を理解して、それに適切な指導をすることでどの生徒ものびのびと勉強ができる。

・Logical-Mathematical IntelligenceとLinguistic Intelligence:生徒の数字へのリスニング能力が正確である ことがスクリーンに映し出されているそろばんを入れている様子から観察できる。解答する英語の発音などが明瞭であり、英数字への慣れがわかる。英数字を実際に使って計算し英語で応答するという行為により更に深い理解に到達している(Deep Understanding)ことがわかる。

・ Deep UnderstandingとはMI Theory提唱者のハーバード大学院認倫理学者のHoward Gardner博士が指摘した概念で、「理解とは知識,スキル等を習得後,実際の生活の中でその知識・スキルを活用できることである。」この点において、こういったそろばん・スキルと英語の知識を合体させて実 践する試みは両者の能力を相乗的に挙げることができることが発表会を見学していてわかった。また生徒たちは発表会でNative Speakerの先生が発音する英語を物怖じしない様子も印象的であった。
Gardner, H. (1999). Intelligences Reframed. New York: Basic Books.

(2)コンテストの部

・プリント問題
参加者の生徒が参観者に向かって着席し、決められた時間でそろばんの計算をする。後ほどレベル別に表彰を行う。

観察結果:
Logical-Mathematical Intelligence:日頃のスキルを磨いたことに対する“Ongoing Assessment”と言える。Ongoing Assessmentとは「生徒の取り組み状態をみながら,絶えずフィードバックを与えること」であり、深い理解達成(Deep Understanding)につなげるために必要な学習作業である
(Shaughnessy & Suege, 1994)。

・SS(Super Shuffle) Brain:ゲストのNative Speakerの先生が2桁~8桁の英語の数字を読み上げる。生徒はその数字を書きとめる。

観察結果:
Logical-Mathematical IntelligenceとLinguistic Intelligence:生徒は聞いた数字をそろばんに入れ、後から解答用紙に記入する生徒もいれば、直接に解答用紙に記入する生徒もいる。後者はそろばんのイメージが頭の中にあると思われる。

・ジャマイカ大会:ジャマイカを使う(下の図参照)。ジャマイカとはイスラエル製の計算を楽しむ玩具です。白と黒の数字の部分にさいころが入っていて数字がかわります。白の部分を÷、×、-、+、などを使って黒の数字の和を算出するというゲームです。


観察結果:
Logical-Mathematical Intelligence:求められた数字をどの様な計算過程で算出するかをきちんと順序立てて、耳で聞いただけでも分かるように説明している。解答は日本語で行われている。

(3)人間そろばん

人間そろばん説明:生徒9名がステージに上がる。一人の生徒がそろばんの珠の5となる。4人はそれぞれ1の位の珠、残りの4人は10の位の珠となる。1の位と10の位の生徒は横2列になって並ぶ。1の位の4人に対面して5の珠になった生徒は立つ。

方法:先生が数字を言うたびに生徒たちはそのそろばんの珠になり移動する。先生が加減の混ぜながら数字を言うたびに生徒は移動し、最後に計算結果を英語で解答する。

観察結果:
Logical-Mathematical IntelligenceとInterpersonal Intelligence:座った作業が続いた後なのでIce Breakerとしても良いゲームである。自分がそろばんの珠になることで数の概念を生徒は実際に体験できるアクティビティーである。このゲームに参加していない高学年の生徒は暗算をしながら一緒に解答をしたり、実際の動きを見ながら参加者の生徒の動きについてアドバイスをしたりする。また参加者同士でも機敏に動けるようにアドバイスをしている。参加者同士の良い交流にもなり、雰囲気も活気がある中、真剣さも見られる。

(4)ファミリーゲーム

そろばんの珠(直径6cm)だけが箱の中に用意されている。スタートという合図により親子でそれぞれが珠を積み上げる。一番高く積み上げたものが優勝する。

観察結果: 
Naturalist IntelligenceとSpatial Intelligence:珠が滑りなかなか高く積み上げることは難しい上、その高さを時間内に維持するのも難しい。必ずどのチームも積み上げた珠が崩れる。その失敗の経験を分析して制限内でどのように対処するかを考える必要がある。保護者と子供のコミュニケーションも作戦会議には必要。

(5)成績発表:

ステージを縁取りしていた赤いシクラメンを参加賞に頂きながら、参加者全員が本日の発表会のどの部門で優れていたかを記した賞を授与される。またレベル別にプリント問題等での商品や賞状なども用意されている。
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MI Theory実践の検証の結論

特に優れていると思った点は3点です。
検証結果からわかるように第1はTomoe MI Academyの発表会はMI Theoryが巧みに実践されているばかりか、その結果、Deep Understandingを実現させているということです。また、MI Theory実践により先生方が個々の生徒を把握しており、先生方と子供への絆も見受けられました。

第2点はこの発表会がInterpersonal Intelligenceを重んじていたことです。アクティビティーにもそれは見受けられましたし、生徒と先生、保護者と先生の間にも感じられました。
ここでは生徒がアクティビティーを行う時にはいつも保護者と対面していました。学校の授業参観等では保護者は教室の後ろに立ち、子供の後ろ姿の身を見ることが多く、子供の表情さえ把握できません。やはり保護者をお招きするに当たりどの学校でもこのような配慮が必要と思われます。子供が取り組んでいる姿をきちんと正面から見れば、その時子供がFlowの状態にあるのかどうかが分かります。Flowとは一種の「乗りの状態」のことで、Claremont Graduate University, California, USAの心理学部教授であるCsikszentimihalyi (2002)が提唱しました(Scherer, 2000, p.14)。あることに没頭して状態でその状態になると生産性も高まるというものです。招待された保護者にその状態を見て頂くような態勢にしておくことためにも、保護者の目線でプログラムを企画することは重要です。
発表会ではどの生徒もそのパフォーマンスが褒められ、賞を頂くことができました。“Ongoing Assessment”として、生徒は動機づけられ、次へのステップになっていくと思われます。
このような主催者側のInterpersonal Intelligenceを研ぎ澄まされていたことも印象的でした。

第3点は発表会会場の設営がMI Theory実践の教室として適切だったということです。クリスマスの飾り付けが施され、生徒がそこに居て嬉しくなるような雰囲気がありました。ステージ正面には出演者の生徒たちが着席し、その後方に保護者や家族が座る場所が用意されています。また会場奥にはソファがあり、そばのテーブルに英語の絵本が置かれています。休憩時間には陶器の子供用のカップが用意されお茶やお菓子のサービスがありました。保護者にも生徒にもとてもくつろげる会場設営でした。これも主催者側のInterpersonal Intelligenceの高さの現れです。さらにエントリーポイント(Entry Points:各活動に生徒が熱中して従事し易い状態(flow)に導く入り口、Sullivan,1999)がさり気なく設置(以下の表を参照)されていることも興味深い点でした。これらが日常のそろばん教室でどのように機能しているのかも探りたいと思いました。

これらの点からTomoe MI Academyで行われた第6回英語そろばんの発表会がMI Theoryの実践面において優れていることが検証されました。MI – Friendlyな学習環境と教材、そして長年の実績から生まれたカリキュラムに学べることは多いと思います。